[日誌]カイゼンがもたらすもの
8月初旬,アメリカのスターバックスがトヨタ流の「カイゼン」を取り入れて業績が回復していることについての報道を受け,いくつかのサイトで批判的な趣旨のとりあげ方がされていた(ex. 47newsの記事,Business Media 誠での記事)。コーヒーが素早くきちんと提供できるように取り組むことと,客が気持ちよく過ごす時間と空間を提供することが矛盾すると関係者が考えているとしたら,いまだ「カイゼン」の価値や内容を正確に認識していないといえるのではないか。
「カイゼン」について批判的に述べられた記事を読んでみると,スターバックスが,工場のような効率の改善を重視したら,同社が重視してきた雰囲気,もてなし,コーヒーなどについてのこだわりを軽視するのではないかという懸念があるようだ。そこには,確かに無駄を排除し,効率化を目指すという「カイゼン」の一断面がとらえられている。
しかし,「カイゼン」については効率化の実現の他にもうひとつ着目すべき点がある。自分(たち)の仕事のやりかたを見直し,改善案を提案し,実際に効果を上げていくことがもたらす組織づくり,ひとづくりが進む方策となり得るという点だ。ムダを発見することは,観察や気づきの力を伸ばすし,効果を実感することは,参加者の自己評価の向上につながる。
人育ち,組織育ちの支援には,成果重視の考え方の他に,過程重視,人間関係重視などの視点がある。「カイゼン」について反射的に批判する人たちの間には,「カイゼン」が成果を出すことを最重視しているという思い込みがあるのではないだろうか。
実際に「カイゼン」活動を通じて組織の活性化をはかってきた経験からすれば,効率向上の成果のみを重視し,評価することは禁じ手の一つだといえる。参加者が取り組んでいる活動内容の成果を最大化するための支援は大いに大切だが,成果が最大の目的になってしまうと活動や考えのおしつけになり,参加者の自主的な取組の気持ちが失われ,結果として全体の成果は小さくなってしまう。逆に,おしつけがなければ,スターバックスの例で言えば,よいコーヒーとよいサービスで心地よい時空間を提供しようという会社のアイデンティティと矛盾するようなアイディアは,スターバックスのような経営理念がきちんと従業員や社会に浸透した会社内であれば,自然に排除されていくだろう。
取り組んでいる事業所の中で,効率化重視に対する疑問が多く出ているのだとしたら,それはいまだ「カイゼン」活動の趣旨がうまく伝わっていないのだろう。活動の推進側にも,業務成果と組織活性化の両方をバランスよく目指す感覚が求められるし,報道,コメントする側も,この日本が発見した一流の経営手法の根本をふまえた報道や応援,批判がほしいところだ。