発売が予想される新型 MacBok Air はパソコンの再発明になるか?

iPhone で携帯電話市場を一変させてしまった Apple 社のイベントがまもなく開催され,巷では,新しい薄型で小型のノートブックパソコン,新 MacBook Air が発表されるのではと盛り上がっている。家庭内 LAN,クラウドや WLAN などパソコンをめぐる環境が激変している中,果たして 新 MacBook Air は新たなパソコン像を打ち立てるのだろうか。

昨今,ビジネス用や家庭用のパソコンの売れ筋は,すっかりノートパソコン一色になってしまった。以前は,市販のものに比べれば安いという理由で部品を買ってきて組み立てる人たちや,ノートタイプに比べて割安なデスクトップを選ぶ企業ユーザーを中心に,デスクトップ型が主流を占めていたが,移動先で使うニーズや,保管場所をとらない,オフィス機器を家庭の一角に常に鎮座させるのは違和感があるといった様々な理由で,世界全般で販売額,台数共にノートパソコンの方が,デスクトップを上回っていく傾向にある。

Apple 社は初期の頃から,パソコンのみならず,Macintosh Portable, PowerBook, iBook など時代を画するノートパソコンを次々と上市してきたが,最近では,iPadの出現で,特に軽量小型ノートパソコンで,自社製品との喰い合いも起こっているのではないかとも言われている。Apple 社のノートパソコンは現在,MacBook, MacBook Pro, MacBook Airという3系統だが,このうち,MacBook Air が軽量・薄型のパソコンとして位置づけられる。市場に出た当初はアルミ合金のユニボディ,交換式電池や光学ドライブ搭載の廃止,たった1つの USB ポートなど,かなり大胆な取り組みで値段も割高だったが,市場でのポジショニングに失敗し,現在は通常の MacBook とあまり変わらない値段で売られている。

しかし,最近のパソコンをめぐる状況は,考えようによっては俄然,MacBook Air のような,シンプルでムダのないノートパソコンに新しい命を吹き込む可能性を与えている。クラウドサービスの立ち上がりや,パソコン台数の急増により,複数の場所で別々のパソコンを同一環境で同一データを対象に使いたいというニーズに応える環境が整いつつあるのだ。特定の一つのパソコンに元データを詰め込んで,外出時などはデータをコピーして持ち歩くといったやり方は,安全上の問題や手間の問題があり,いつかはすたれ,クラウドや家庭内・企業内サーバーにあるデータを,高速回線を使って操作するか,あるいはデータを自動で同期させながら扱うという方法が,一般的になりつつある。

そうした環境で,ノートパソコンに,機械的動作を伴うハードディスクを搭載して重量を増やすよりも,必要最低限の SSD (メモリーをハードディスクがわりに使う)を搭載したほうが合理的だ。その分,バッテリーを多く搭載して稼働時間を長くしたり,デスクトップ型とほとんど遜色ないプロセッサを使うことができる。部品ごとの重量配分のバランスをうまくとれば,非力のプロセッサを搭載して値段を安くしたり稼働時間を長く見せている現在のネットブック,CULV と呼ばれるネットブックの発展形の製品がゴミに見えるような商品を開発することも可能だろう。このコンセプトが市場に受け入れられれば,重い,大きいパソコンというものが家庭や企業から一掃される。発電所の詳しい仕組みを知らず,管理をしなくとも電気が使えるように,パソコンの技術やデータ管理の煩わしさから離れ,データや情報の処理や消費を楽しむことができるようになるのだ。

新しい MacBook Air は,こうしたクラウドを前提とした新しいパソコン像を,具体的な商品として市場に示すものとなろう。使っている技術に目新しいものはなく,コモディティ商品化の進むノートパソコンの分野では,こうした取り組みは Apple 社ならずとも可能なはずだが,現実に挑戦しているのは Apple 社を除いては,このアジア地域で目立つのは台湾,中国,韓国のメーカーであり,日本のメーカーに存在感がないのが残念である。