20130926 支援成果をあげるための支援側のポイント
先日,関わっている団体がとある審査を受ける際,ボランティアとして申請書の作成・提出と審査の準備支援を行った。この時の気づきをメモしておく。なお,この事例では,魚野は審査員に直接相対するのではなく,審査を受ける人達を側面支援していた。また,この審査の結果は,来月に公表されることになっており,現時点では最終審査を突破できたか否かは承知していない。
1.グループの特徴,強みと弱み
まずもって,今回支援させていただいたグループは,2つの点で特徴的だった。ひとつは結束の高さ,そしてもう一つは水平的な人間関係の組織だったということだ。審査を受けるという話が持ち上がってから実際の申請書作成・提出まで数週間と時間がないところ,連日のようにオンライン・オフラインの会議を重ね,見事締切に滑り込んだ。こういうストレスの多い状況で,リーダー格,事務方,将来の実行役が冗談を交わしながら,時には口角泡を飛ばしながら,議論し,気付きを得て,構想をまとめていった。そこには,怒鳴り合ったり,決めつけといった企業内やたて型組織にありがちなコミュニケーションは一切なかった。
事前準備で不足していたのは,経営者の視点がやや弱いという点だった。関係者は中小企業の経営者だったり,個人事業主だったり,NPO団体の責任者だったりする。しかし,新規事業を始めるための融資や出資を受ける際のような外部への説得は未経験の領域でもあった。
一方で,地域をなんとかしなければという思いは強く,話し始めると1時間でも二時間でも話し合っているというメンバーでも合った。魚野は終電の都合で暇乞いをするのが常だが,車で集まっているメンバーは日付が変わっても話が続いていることがしばしばだったという。また,オンラインでの話し合いが連夜のようにあり,まずは思いの共有がはかられた。
そんなこともあり,最初に準備された書面はメンバーの思いが全面に出過ぎ,自分が知っていることと相手が知っていそうなことが意識されておらず,勢いはあるが内容が薄いものとなってしまった。問題にどっぷりと浸かっていると,危機感がつのるが,その危機感が周囲に伝わらず,もどかしく思うことでますます相手に意図が伝わらないということがある。
そこで,支援者としては環境分析や事業の対象となる市場の現況などについて質問をなげかけ,現状はどうなのか,どうしたらデータが入手できるかなどについて現状を客観的に伝えていくためのポイントを見つける手助けを行っていった。例えば,古い事業者さんの事務所などには,たいてい,その地域のことを調べた紙誌がおいてある。それをペラペラとめくると,過去,その地域の産業がどうだった,文化がどうだったかの記述が見つかる。手近にそんなデータが眠っていたことに驚く事業者さんも多い。
2.申請書のブラッシュアップ
上述の強み,弱み,事業者さんの特徴をヒアリングや支援活動でつかみ,事業者さんが作成してきた申請書案初稿をもとに,ブラッシュアップに入った。
多くの事業者さん,団体がそうだが,書き込む欄に,こういうことを書きこんでくださいといった内容の指定がある。だが,最初の欄から順番に書き込んでいくと,その欄に書くべきでなく別の欄で聞かれていることが書かれていたり,書かなければいけないことが,どこにも書かれていなかったりする。
魚野の場合,初稿が準備された場合はそこに書いてあることを,書き込み指定の欄との整合性をとることから始める。書き込みが不足しているなと感じても,だいたい別の欄に書き込んであることが多い。そうした混乱が起こる原因というか,混乱している要素は,時間軸(過去と現在の記述の入り混じり),ロジック(事実と意見の入り混じり)の2つであり,抜けているのは具体的な傍証や,ロジックの鎖の中間の輪であったりする。これを,ヒアリングをかけ,「なぜこう言えるんですか?」「これは●●のことですか?」と順々に確認していく。
3.口頭試問に対する準備
事前審査の段階で,審査側・審査の事務担当側からは鋭い質問がとんできたが,やはり事業の継続性や,手段の妥当性などの質問が多かった。社会的事業の支援を得るためには,単に困っていることを訴えるだけでなく,どうすれば解決できると考えているのか,その方法が成立するのかといったことについて説明が求められる時代である。そこで,口頭試問の準備段階で,例えば,需要がありそうだということだけでなく,統計の数字をひっぱってきたり,関係者の要望を肩書・所属つきで申請書に加えることを考えても良いとアドバイスした。
特に,今回審査を受けたのは,社会に貢献する団体への支援の審査という位置づけであり,事前に競合として予想されたのは,子育てや高齢化対策,環境対策といった,これまでどちらかといえば福祉系,資金の交付という形での支援を受けるジャンルの団体が多いのではないかということであった。一方で,魚野が今回支援した団体は,中山間地域の高齢化対策という面はあるものの,事業を起こすことで若者を地域に定着させようという内容であったため,かなり差異化をはかれるとみられた。
そこで,事業を継続できる体制や,需要がたしかにあること,投資を最小限に絞り,事業継続をはかりやすい条件を整えたことなどを,個別具体的なデータをあげながらアピールするようアドバイスした。
4.まとめに代えて
普段は6次産業化プランナーとして事業者さんの代理人のような立場で審査を受ける側だ。今のところ,制度が始まって以来,担当10案件全案件認定という戦績だが,いくつか危うい橋を渡った審査もあった。今回,側面支援という立ち位置で気付かされたのは,審査を受ける人・団体の,その取り組みや審査突破に対する熱意,そして準備が大切という当たり前の結論だった。加えて,できるだけ複数の関係者が準備にあたったほうが,様々な視点で検討できて,懸念事項を潰すことができるという点であった。
支援側としては,審査の際のライバルや,同時に審査を受ける他の案件との違いを知ることができるなら,それを知っておくべきだとも思う。内容はおそらくいずれも意義深く,度量も同じようにたくさん投じられてきたものと思う。そして,最後に狭き門を突破できるかは,実は細かい努力を最後まであきらめずにやっているか否かにかかっている。
結局,診断士,プランナー業務での成果をあげ続けるためには,いかにそうした事業者さんたちの前向きの気持ちを引き出し,継続してもらえるよう仕向けるかにかかっている。