HACCP対応支援事例(Y社)

 3月から5月にかけて,小規模食品事業者さんのHACCP対応支援を行ってきました。関係機関の点検も終わり,大きな問題なく,既存の施設にちょっと手を加えることと運用の改善でなんとかなりました。自分のためも兼ねてメモをしておきます。

取組の背景

 本件は,従来香港へ輸出していた水産品の中国への直接輸出への切り替えに伴うHACCP対応でした。

 日本の食品輸出先で非常に重要な位置を占める香港ですが,実は従来から香港経由で中国大陸に再輸出される商品が大変多かったのです。再輸出といっても,正規のルート・手法で輸出される他に,闇ルートを通るものもたくさんありました(今回支援させていただいた事業者さんは正規ルートの方)。実際,香港と中国大陸の境界線を渡る鉄道には,運び屋さんと言われる人たちをたくさん見かけました。香港が自由貿易港として発展し,比較的なんでも取り扱う輸出しやすい場所であったこと,日本の食品に対する信頼度が高いこと,中国大陸との密接な関係があるために商品を再輸出しやすいこと,中国大陸からの観光客(香港・マカオに来る人や,日本など海外旅行にゆき,経由地として香港を選んだ人たちなど)が年間数千万人いたことが,こうした輸出量・金額の増加を支えていました。

 ところが,今春から,水産物について香港経由の輸出が認められなくなり,中国大陸への直接輸出が必要となりました。これに伴って,中国大陸側の食品関連法規の適用を受けることになり,支援先さんの加工工場は,HACCP対応をしなくてはならなくなったのです。

 事業者さんはこれまでHACCPについては経験がなく,また,今年6月から義務化されたはずの日本国内での食品関係事業者のHACCPについての行政からの広報や啓発活動,指示・指導もまだまだ行き渡っていないため,当初はかなり設備投資をしなければ対応できないのではないか,場合によっては加工場を新設しなければならないのではないかと思っていらっしゃったそうです。

取組の内容

 3月末に事業者さんをお訪ねし,現場を見せていただいたところ,工場内がワンルームで衛生区画については間仕切りどころか区画という概念もなく,二重扉もなし。屋外と屋内作業でリフトが一台,という場所でしたが,幸い,CCPの設定不要な商品であったため,既存施設のちょっとした改修と運用の改善でなんとかなりそうですとお話し,改修の企画や書類整備,社員教育などのお手伝いをさせていただくことになりました。

 HACCPの原則・手順通り,お話を伺って商品仕様書や現状の設備配置図,動線図(人・商品)を作り,現場の方も交えながら,動線の検討,棚や履き替え場所の設置などを合わせて行い,少なくともHACCPの考え方に基づいた工程であると言えるようにしました。また,QC工程表や作業手順書も含め,厚生省の示した手引書の例示とと中国大陸の国家基準の要求事項を組み合わせた内容の衛生計画や記録書式の素案を作成。これも現場の方達を交え,何度か修正を重ねました。御多分に洩れず,外国人実習生のいる現場でしたので,内容が理解できているかなどを確認しながら話を進めました。幸い,当該事業者さんは従業員を大切にする方で,定着率も高く,積極的・前向きに取り組んでいただける従業員さんでしたので短期間で仕上がりました。

 同時に,4月から5月にかけて整理整頓やその維持を支援し,2ヶ月間で見違えるように綺麗な現場となりました。

 また,この時期に常滑の国際展示場で開かれていた食品機器・設備の展示会で収集した情報を提供したほか,念のために将来別の商品を手がけたときにCCPとなりそうな物理特製の計測機器に連続自記記録装置を追加するよう提案し,出入りの業者さんに対応していただきました。

支援の結果

 今回の制度変更に伴い,日本の厚生労働省が中国政府機関による点検の代わりを務めるということで書類提出や現場確認の対応も支援し,無事,終了しました。小さな指摘事項はあったものの,合格判定がもらえそうです(確定でないのは,最終的には中国政府の判断結果街であることから)。

 事業者さんからは,冒頭で述べた通り大型投資が必要なのではないか,場合によっては輸出は諦めるしかないのかと悩んでいた(実際,同業者で輸出を諦めたところが多いそうです)ので,今回の支援は,大型の設備投資もなく,短期で輸出継続の目処がつき,大変助かったとの高い評価をいただきました。

 また,補助金をこれまで活用をしたことがない事業者さんでしたが,これまでの海外輸出実績や,今回のHACCP対応の実績からすれば高評価が得られそうな補助金(HACCPハード整備)の情報を提供したところ,ぜひ活用したいとのことでした。これについては,単に規模拡大をするために設備投資をするのではなく,自社の強みを生かした品揃え強化や新たな市場の開拓につながる取り組みとなるよう,経営戦略・経営計画策定にまで遡って検討する支援を今後行っていく予定です。加えて,いきなりハード整備の大型補助金狙いで不慣れな事務作業に慌てる可能性があることにも鑑み,すぐ着手できる新たな取り組みに必要な設備の導入に持続化補助金を使ってみることを提案し,申請をお手伝いすることになりました。