李忠成選手の平衡感覚
昨晩のサッカーアジア大会で日本は優勝を勝ち取った。決め手は,日本社会に育った在日コリアン4世の日本人選手,李忠成選手のゴールだった。
印象に残ったのは,李忠成選手のことばだ。インタビュー記事でまず入ってきたのは,『俺がヒーローになるんだ!』と自分に言い聞かせながら常に自分を信じ続けピッチに入ったという言葉だった。サッカーに限らず,自分自身を語る選手が日本社会のスポーツ界でだんだん増えてきているが,成果をあげたヒーロー,ヒロインが語る時,自分の力を信じ,集中したという表現は,まだまだ日本社会では珍しいことと思う。
こうした表現は,個人主義の色合いが濃い,アメリカや西ヨーロッパの社会ではよく聞く言葉で,日本人選手であっても,そうした世界で活躍する選手の台詞としてはよく聞く。一方,集団主義の風潮が色濃く残る日本社会では,まわりのおかげ,支えてくださった人たちに感謝という言葉がまず口をついて出てくることが多い。こうした,個人主義社会と集団主義社会の違いの研究成果を紹介した「選択の科学」(フィナンシャル・タイムズ紙が選んだ2010年のビジネス書ベスト6)においても,まさにこうした違いが紹介されている。
李忠成選手の公式ブログでは,報道された,自分の努力を表す表現と共に,まわりのおかげと感謝する言葉も並べられている。国籍を日本に移しながらも,おそらくは多くの苦労を味わった選手だからことできる配慮だろう。
国内市場が縮小する中,日本企業は海外という資源を活用せざるを得ない。その場合,かの地の文化を理解し,尊敬した上で,日本社会の特徴をも持つという平衡感覚が求められる。李忠成選手のような,国際感覚を持つならば,そうした荒波にも立ち向かっていける。