反日デモ・尖閣問題に思う事
日中関係が一段,厳しい段階に進んだ。先日,中国国内現地から,深刻な状況ではないとお伝えしたばかりだが,その後,在留邦人や現地の小売店,製造工場の破壊行為があるなど,前言を撤回せざるを得ない状況になってきている。今日は柳条湖事件の当日。今後,どうなるのか,どうすべきか,考えてみた。
まず中国国内の雰囲気だが,日本国内で煽られているような反日ムードで一色というわけではまったくない。一部,街中の日本関連の広告が隠されたり目立たなくされたりしはじめたとの報道もあるが,そもそも日本ブランドの店舗,看板,商品は中国,特に都市部では満ち溢れている。それらが全て撤去される状況にあるかといえば,そんなことはない。
確かに,中国国内の公式報道は,反日を煽るような雰囲気でいっぱいだ。8月のデモの際,翌日香港空港で目にした香港現地や大陸から持ち込まれた新聞はデモの開催や日本を指弾する内容の記事であふれていた。今回9月の訪中の際に目にした新聞も,同様だった。インターネットや携帯のネットワークでつながる若い世代が構成するネット世論の中には,理性的な愛国,暴力行為への反対意見も見られるが,逆に言うと,そうした意見から,暴力行為が多発し始めているということをうかがい知ることができる。中国国内のマスコミ統制は中央政府の支配領域であり,現況のような煽り対応をしているということは,現時点ではまだ一部日本国内世論が期待するような内戦状態や反体制運動が拡大しているという状況ではないということも推測できよう。
中国国内の動きだけでなく,実際の現場も風雲急を告げている。1000隻もの漁船が尖閣地域に向かったとのことで,海保も対応に苦慮しているとのことだ。中国国内のニュースが伝えるような全てが尖閣諸島での活動を目的とした船舶というわけではないだろうが,物理的な力の応酬は双方の国内に感情的な反応を招きかねないだけに,是が非でも避けたいところだ。日本側には政府統制も効いているだろうが,先方の行動が偶発的な,あるいは意図的な挑発から発展していきかねないことを思えば憂慮すべき事態といえる。
しかし,中国国内の圧倒的多数の市民は,今回の事態や暴力行為に,一歩距離をおいている。中国の人口規模が日本の10倍以上であること,都市の規模が大きいことを考えれば,1000人クラスのデモは日本の100人クラスのデモとでもいおうか。また,今回に限らず機会のあるごとに様々な階層の中国の人たちと話をしてきたが,破壊行為に嫌悪感を表明する人が圧倒的で,主体の官民を問わず威嚇行為について為すべきでないとする意見が多かった。
では日本側の一番よい対応方法は何であろうか。力づくで解決することはあり得ないし,双方とも望んでいないことは,先般,実務者協議は続けることで合意したという両政府の発表を見ても,明らかだ。
であれば,外交的には周辺国,関係諸国を味方に引き入れることが有利な解決につながるわけだから,要は中国ができないこと,日本が国際ルールに則り,平和国家・民主国家であることをうまくアピールすることが,得点につながることを大いに活用すべきだろう。外交・防衛も含めた徹底的な専守防衛と,市民レベルでの日本国内の中国の人たち・施設の安全確保,右から左までの自由闊達な議論あたりではないだろうか。
また,両国とも国内世論を味方につけられるかどうかが,政府の行動を左右する。今のところ,冷静な対応を呼びかけ,実際にそうしている日本政府に対する信頼は,煽り行為をしながら現場では統制強化しようとする中国政府に対する信頼に優っているように感じられる。
中国がやっかいな隣人とならないよう日本ができることは,彼の国が普通の国に変貌していくことを後押しすることだ。そのためには,日本が70年台に経験してきたような高度成長期の治安不安を経済成長と民度の成熟で乗り越えてきたことを応用し,手本を見せることで,中国自らが国を変えていくことに繋げたい。
日中の政府の対応だけでなく,国民の対応の違いも,日中双方国内からのみならず,世界各国からも注目されている。